イアン・マクドナルド『火星夜想曲』

火星夜想曲 (ハヤカワ文庫SF)

火星夜想曲 (ハヤカワ文庫SF)

一人の博士が図らずとも留まる事となってしまった鉄道路線が近くを走るオアシスに、様々な人々が集まってきて街が生まれ、その街や人々の変遷を描いていく作品。
解説で触れられている著者の「リミックス文化」観が随所に溢れていて、多分よく読むSFファンほどニヤニヤとくる作品なんだろうなあ、と。ROTECHってギブスン作の用語もじりでもあるけど存在意義的には人類補完機構だよなあとか、ディック的なシーンもあるなあ、しかしなんと言っても『火星年代記』のオマージュであるなあとか、とそういう元ネタの世界観でよりイメージが膨らむ作品。もちろん単独でも楽し……めるかなあ、そこは微妙だ。やっぱりある程度、そして幅広くSFに触れてる人向けな小説
である気がする。文体は歌い上げるような感じで、比喩表現が多くて、それゆえに作中の火星の風景が鮮やかに想像させる感じ。あと、キャラクターの役割に名前などから伏線を示した上で物語を展開していく様は、神話や説話のような印象を与えてきて面白い。幻惑的な魅力を増させる。
まあ何より個人的には、はぐれ者、鼻つまみ者、厄介者、偏屈者、等々のマイノリティな人間達が作り上げたコミュニティが一番魅力に感じた。そして、またそれが失われていく過程も。