瀬名秀明『ハル』

ハル (文春文庫)

ハル (文春文庫)

今、ロボットを題材にするとこんなお話が出来るのだなあ。ロボットに関わる者の、ロボットに対する畏怖や失望感を強く示しつつも、新しいロボットと人との関係を模索している中編集。
鉄腕アトム』に代表されるような、架空のロボット像に縛られている21世紀の大人たちと、『AIBO』のようなロボットが身近にいるのが当たり前な子供たち。
現実の今、実際にヒューマノイドや家庭向けのロボットが登場しつつも、昔のSFが描いていたようなロボットの「心」や「会話」や「思考」がまだ達成されないことやその概念の複雑さが分かり、ちょっとした失望感も抱いているロボットファンに対して、「目標ばかり追って焦ることなく、ありのままのロボットも受け入れようじゃないか」という作者からのメッセージ性が感じられる作品だった。
『亜希への扉』はハインライン夏への扉』のオマージュとしても秀逸ではないか。唯一ストレートに明るい中編でもある。
ロボット好きならチェックすべき中編集。架空と現実、今と未来の間を上手く描いている。