マイクル・スワンウィック『グリュフォンの卵』

グリュフォンの卵 (ハヤカワ文庫SF)

グリュフォンの卵 (ハヤカワ文庫SF)

本屋で平積みからどかされ、「行く先は棚下の引き出しかそれとも返本か」と邪推せざるを得ない「棚の上積み」という謎のポジションにあったところを、つい気まぐれを起こして購入。翻訳物は大御所の名作ばかりを中心に読んでいたので、たまには最近の作家のを読んでみようと。
10編の中短編からなるもので、ジャンルもバラバラ、しかも幾つかはクロスオーバー気味。読んでいて大当たりと感じる作品はないが、これは面白いと感じる作品はきちんとある。退廃的な印象の『犬はワンワンといった』、現代の童話的な雰囲気のある『世界の縁にて』、太陽系内の知的生命体や機械との接触を描く『スロー・ライフ』と『死者の声』、月コロニーの社会統制における人の苦悩を描き出す『ウォールデン・スリー』が、特に自分にとって面白い作品だった。
ただし、これ以外の作品はつまらなかったのではなくて、翻訳がイマイチで物語や小道具が理解しにくかった可能性もあるのでは、と思ったりもする。良かった作品とイマイチだった作品で翻訳者を見比べてみると、見事にイマイチだった作品の方にばかり特定の翻訳者の名前が並んだ。
うーん、そういうもんなのかなー。
 
その特定の翻訳者が、巻末解説の筆者だというのは、言及するべきところじゃない。
 
多ジャンルにまたがる作風のおかげで、最近のSFはこういう風に出来てるのか、という参考になった。でもやっぱ敷居が高いなあ、と感じる節は否めない。