フィリップ・K・ディック『高い城の男』

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

え、ここで終わり?という結末ですが、そこまでの盛り上がりはすごいです。
第二次世界大戦における勝敗が逆転した世界の、敗戦国アメリカを舞台として、人々がその社会や生活に対して疑問や悩みを強めていく過程が物語の柱となっています。
物語の中で大きな役割を示すのが、『易経』と劇中世界とは逆の結末を迎えた第二次大戦から現在を描く架空小説です。
多くの登場人物が迷った時に、『易経』を利用し前途を占う描写が何度も描かれています。そしてその結果が、他の登場人物と同じ結果となっていたり、後に起こる事件や状況変化の伏線にもなっているのです。これがとてもうまく機能しています。占った結果を登場人物たちが解釈する様子に、彼らの不安と次に起こる何かのヒントが含まれていて、妙に引きずりこまれてしまうのです。
そして架空小説の『イナゴ身重く横たわる』、これの役割がまた面白い。この本が登場人物たちの現状に対する不満や悩みをかきたてるだけでなく、これに関して登場人物同士に議論させることによって、この物語における歴史や世界状況を巧く説明しています。
読んでいくうちにその完成度から、「もう一つの現実」として受け取れてしまうのがすごい。敗戦国民や迫害された民族のコンプレックスや、管理職につく男の苦悩、戦勝国の危険な暴走が、それぞれの人物から生々しく伝わってくる。
時代の変化を受け、登場する人々の心境に変化が表れたところで、この小説での物語は終わります。
最後の架空小説の作者と読者女性のやり取りを、どう受け取るかは我々次第なのでしょうね。
3つくらいの見解は考えられる結末だと思うのですが、他にこの小説を読んだ人はどう結論つけたのでしょうか?