小川一水『第六大陸』

第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

日本国内有数のレジャー企業、特殊環境における建築を得意とする建設会社、そして画期的アイディアを有しながらも経営に苦慮するロケット製造会社が、合同で月面に商業施設を作るというお話ですよ。話の展開はまるで『プロジェクトX』のようです。そりゃあもうたまらない。
文章は比較的簡潔で読みやすいです。禅問答のような専門用語の応酬はあまり無いと思います。
登場人物たちはそれぞれに一癖ある性格でありつつも、みな共通して開拓者精神に溢れていて、読んでいて清清しい。組織における個人の仕事というものの描かれ方もまた魅力的。
「前向き過ぎる」とか「企業による月面開発なんて現実味が無い」とか感じる方も居るでしょうが、そこがいいんですよ。むしろ、作品に出てくる人々がこの仕事に意気込みと希望を持っているという、こういう感覚こそ実感しながら生きてみたい、と。
作家が読者に未来像を提示する、昔から自分の持っていたSF像はこれなんですよ。しかも前向きな未来、21世紀になってもまだ現実に行われていない月面開発に対する提案例。
という訳で、『プロジェクトX』ファンと、「子供の頃、教室で読んだ科学雑誌にあったような月面基地はどうなったんだ?」とふと思い出した方に、是非お薦め。いや、ホントに面白いですよ?肩肘張らず読めるし読後の満足感は十分過ぎるかと。恋愛要素もあるしね!