フィリップ・K・ディック『火星のタイム・スリップ』

火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)

火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)

表紙カバーの粗筋が、ディックの小説が如何にまとめにくいかを表しているような・・・、今まで読んだ作品なら第1章程度の粗筋なのに、この作品は・・・。
視覚的に不快感を感じるイメージを、なぜこんなに巧く、何度も書けるのか。人々の葛藤や苦悩を、どうしてこんなに丸出しに描けるのか。
『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』を読んだ時よりは、設定された道具や環境のイメージはつかみやすかったです。だから登場人物たちのやり取りに没頭出来て、彼らの周りの環境や人間に対する不信や不満が常に感じられました。
そんな世界観の中でごちゃごちゃとお話を掻き混ぜられたあとに、あの結末はとても味わい深い、と思います。