北野勇作『かめくん』

かめくん (徳間デュアル文庫)

かめくん (徳間デュアル文庫)

軽妙な調子なのに深みを感じる作品。「かめくん」の視点は淡白ながらも感覚的な鋭さがあって面白い。
街の風景や人々に、如何にもな身近さを感じさせながらも、断片的な木星における戦争がもたらす負の部分が見え隠れする。「かめくん」自体が兵器というか人工的な兵隊として造られたのは明確で、その悲哀が微かに印象付けられるものの、それよりもマイペースさや思慮深さに強く愛らしさを覚えてしまう。そういう陰陽の加減が絶妙。
軍や関連企業のキャラクター達が臭わす四角四面っぷりや適当さ加減も、妙に人間臭く憎めない感もある。だから却ってややこしい。
気軽に読める文体ながらSF的で哲学的。どんな人でも読んで面白さを感じる傑作だと思う。
「かめくん」はとてもいい奴だ。周りの人たちも、ちょっと憎めない人ばかりだ。だから、余計に彼らの生活が戦争に振り回されていると思うと、少し寂しい気分にもなる。