フィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』

流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)

流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)

「これはどういうお話なんだろう?」とラスト100ページくらいまでずーっと考えてた。もしかして仮想世界で登録データのみが飛んだ、なんて方向なんだろうか、なんて予想したりしたけど。小道具が分かった途端に、「ああ、この点はどうでも良いんだな。それよりこんな奇妙な目に遭った、連中の感情が大事なんだな」と分かった。
そう分かった後から話の流れを振り返ると、『スイックス』であるタヴァナーにある種の冷淡さを感じたり、バックマン警察本部長の二面性に気付かされたりする。そこからラストまでの主役交代を読み進めるうちに、バックマン警察本部長が物語の中であるものを失った姿に徐々に共感を深めてしまう。
「当たり前のように存在するが、無くなった時その大切さに気付くもの」をテーマにして、始めは管理社会のIDを主眼に据えながら、クライマックスでは別の何かが取って代わる。そちらはタヴァナーが保身の為に作中でないがしろにしたもの、というのが極めて深い。
これも時期を見て再読。もう一度読んだらもっと面白く感じるはず。