古川日出男『アラビアの夜の種族』

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

まず、最初に「・・・SFなのか?」と疑問から投げていいのかしら。いや日本SF大賞受賞作らしいが。まあSFの定義なんて知らない。おそらくファンタジーとSFは、ジャズとフュージョンくらいの違いなんだろう。そう解釈する。そんなお話はここで一切忘れよう。
とにかく魅惑的な一冊。情景描写の細やかさや、類義語の生む強調、短い台詞に与えられた力強さ、登場人物の荒れ狂うような感情描写、どれもが物語への没入を促す。
読んでいるうちに、読者である自分も聞き手として物語の中に居るような錯覚に陥り、登場人物同様に夢の中へと誘われる感覚。
渇いた砂漠の国の、お伽話のような年代記を、文字の間から夢に見る。
分厚いだけの濃厚な愉しみがあって、とても満足。
 
中古でハードカバーが手に入ったのはラッキーだったなー。文庫だと3刊構成になっているから、ちょっともったいない。