ジャズの歴史とオタク文化の今は比較対照としてどうよ?

ジャズは現在、ハイ・カルチャーともカウンター・カルチャーともサブ・カルチャーとも言えない音楽ジャンルと化している。古式ゆかしいジャズ・ファンは最早ハイ・カルチャーとしか呼べないようなジャンル形式に囚われた音楽消費をしている。彼らの聴くタイプの演奏者は、形式に沿った中で一部が微々たるテンポで複雑さを増させつつ、その他多くが細分化した個性で伝統芸能を続けている。対して若年層はDJ文化等を経由して一音楽ジャンルとしてジャズを消費している。様々なジャンルと結合し、その音楽性が多彩になったジャズだ。ただし若年層におけるその「ジャズ」の定義は曖昧である。前者は今後のジャズに大変革は望んでいない。対して後者はどのようなものもジャズとして受け止めるが、何が主流となるべきでこの先どのような音楽となるべきかとか、ジャンルとしての将来像には触れない。どちらにせよ、アメリカで生まれた当時の「ポップ・カルチャー」としてのジャズは、もう何処にも存在しないし、ジャズのリスナー・プレイヤーとして入門できる機会は限られている。
ジャズの歴史を軽く触れよう。20世紀初頭に当時の黒人に身近な音楽であったラグタイムやマーチバンドやブルース・ゴスペルから派生して、スウィング・ジャズ20年代から30年代の間に一つの定型となった。スウィング・ジャズの主たるバンド形式は大人数でアンサンブルもはっきり決められたビック・バンドだった。40年代に入り、ジャズの魅力であるアドリブ演奏の充実を望んだ演奏者達が、4〜5人前後を基本としたコンボ形式のバンドで、より複雑なアドリブ・ソロ演奏が主体となった音楽を始めた。これがビ・バップであり、大戦後はスウィング・ジャズからこちらへとジャズの主流が移り変わる。ビ・バップは50年代に入ってより複雑さや演奏者・バンドによる個性を付加しながら、ハード・バップへと発展する。しかし楽曲やアドリブ・ソロやリズムが複雑化してくると、バップの持つコードに縛られた演奏法に疑問を持った人々が現れた。彼らの中にコードやリズムを解体して、一切のルールを取っ払って複雑怪奇な音楽を演奏し始める者が現れ始めた。これがフリー・ジャズである。そしてもう一つ、コードではなくスケールに基づいた楽曲を作り、アドリブ・ソロの自由度を高めたスタイルを編み出したグループも生まれた。こちらのサブ・ジャンルがモード・ジャズと呼ばれる。これらが60年代に大きく取り上げられたが、どちらも初心者にはとっつき難い音楽となり、ジャズのリスナーは減少し始めた。ジャズマンは70年代を前に頭を絞り、ご近所の音楽ジャンルを参考にし始めた。ロックやファンク、ソウルやR&Bからリズムや曲の構成や電気楽器を取り入れて、ジャズの長所たるアドリブ・ソロをこれらの上で演奏し始めた。これが70年代に大当たりしたフュージョンである。一部のミュージシャンはこれによってポップスと肩を並べるような売れ行きを示した。ところが80年代以降になると、ジャズは新たなサブ・ジャンルを生み出す力を失ってしまった。
これがごく最近の流れを省いたジャズの歴史の大まかな流れである。雑多な音楽の寄せ集めから大衆化、その後に構造的発展を続け、ブレイク・スルーを経験し極限まで複雑化した後、再度大衆化を経てジャンルとしての成長を止めてしまったのがジャズである。
オタク文化も似たような事が言えるのではないか。
アニメで喩えるならば、『鉄腕アトム』がディズニー・アニメやロボットSFのまぜこぜとして大衆の前にスウィング・ジャズとして登場し、『宇宙戦艦ヤマト』や『うる星やつら』や『機動戦士ガンダム』で特定客層向けのビ・バップとして生まれ変わり、『超時空要塞マクロス』等でハード・バップ化、『新世紀エヴァンゲリオン』等でブレイク・スルーしたフリー・ジャズが発生して、表現内容で行き詰まりかけた所に『ガンダムSEED』等で別な客層を捉えた大衆化フュージョンが登場した、そして複雑怪奇なジャズを求める層と分かりやすいジャズを求める層で分裂した80年代的な今をオタクは迎えている、なんていうのはどうだろう。ジャズ・ファンでありアニオタである人が見たら「なにアホぬかしとんのじゃカス」くらい言われそうな酷い喩えだが。
オタク文化の実際は、フュージョンまで到らず終いでスウィング・ジャズとビ・バップの過渡期みたいな、ニッチで中途半端な作風に回帰しているのかも知れないけれど。
さて、ジャズの領域では、実はジャズはビ・バップが登場した時点でジャンルとして完成してしまっていて、モード・ジャズやフュージョンは延命処置が成功してしまったという見方が一部にある。そしてその延命を果たしたのが「ジャズの帝王」マイルス・デイヴィスである、という説。要するに音楽の構造そのものからファンの動向まで全体を俯瞰出来るカリスマが居たから、ジャズはここまで多彩で魅力の長持ちするジャンルになった、という意見だ。ちなみにこの人もある時期から「ジャズは死んだ」と発言している。
さて「オタクの王様」は如何に。果たしてオタクを続けて、オタク文化を新たに塗り替えることが出来るのか。
 
まあ、ジャズ・ファンと言うより、ヌルいマイルス信者の妄言に過ぎないのだけれど、特定ジャンルの罹る病としては多分同じなんだろうな。今後もアップデートされ続けるのか、それとも分かる人にしか分からないしそういう人にしか伝承されない伝統文化として存在し続けるのか。
まあ、変容しても死にはしまい。少なくとも、最近の「オタク」が、本当に「オタク」で、今後も「オタク」ならば。
ここが最大の疑問だがね。