レイ・ブラッドベリ『火星年代記』

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

ブラッドベリの文章は、色彩感覚が華やかで、独特のテンポがあって、非常に好みです。翻訳者がきっと丁寧な仕事をしているんだろう、と感謝。
反面、内容は重いのですが。
まるでいやみったらしいくらいの社会批判。読み終えた直後に強く感じたのがそれ。一つ一つの話だと、軽妙なやり取りを描いたものだったり人間味あふれるものだったり印象は様々なのに、全体を通すとその軽妙さや人間味さえ、軽薄に見えてしまうような気がしてくるのです。
個人的にお気に入りは「沈黙の町」。あの男の気持ち、よく分かる。でも、あの男の行動を「当然だ」と言い切れてしまうような人は、ブラッドベリが暗に批判する人種にあたるんだろうなあ、と考えてみたり。
読む前に抱いていた印象とは真逆の結末だったので、読み終えた瞬間は「・・・あれ?」という気分に。
冒頭の印象は『華氏451度』より期待を感じるものだったけれど、結末の感慨深さは『華氏451度』の方が勝っていて、でもこちらの結末の重みもまた格別ではあるけれど、うーんはっきりと表現出来ないです。