J・ティプトリー・ジュニア『愛はさだめ、さだめは死』

何とか2日がかりで読み終えました、とても曲者だった。
特に面白かった短編を挙げますと、

1.愛はさだめ、さだめは死
2.最後の午後に
3.エイン博士の最後の飛行
4.接続された女

あたりですね。特に1.と2.は圧倒的でした。
文章から熱気が伝わってくる異生物SFの1.と、静かな緊張感がどんどん荒々しく押し迫ってくる惑星漂流物の2.は、ダントツで凄い。もう読み終えたあと、何も言えない。
3.は他の作品に比べると、文体そのものの個性は弱く自分にとってはとっつきやすい作品ですが、オチがアレ。すがすがしいくらいに。
4.はサイバーパンクの先駆け、という文句がついていますが、それよりもP・バーグという存在がとても悲しくてはかない。

全体として、破滅的な印象を感じる作品が多いです。意味のある終わり、何かがまだ先にありそうな終わりですが。

あと他の作家を読んでいる時に、自分は演劇や映画を見ているような感覚でイメージを膨らませているのですが、この人の場合は作家・もしくは事件に関わった誰かがテーブルの反対側に座っていて、まるでおとぎ話を聞く孫や食事の他愛無い会話を聞く友人や事件の取材をする記者のような、そんなイメージで一言一句を逃さぬように読むという感覚になりました。
それ故に、「すべての種類のイエス」「楽園の乳」「アンバージャック」あたりは雰囲気の中にある何かを、うまくつかめなかった気がします。

しかしやっぱりこれは凄い。参りました。