小松左京『地球になった男』

地球になった男 (新潮文庫 こ 8-1)

地球になった男 (新潮文庫 こ 8-1)

ひと月ほど前に先輩から戴いた短編集。冒頭から「地には平和を」で、作中年代が1960年代なものも幾つかあり、比較的初期の作品を集めた本なんだろうか。それにしても内容に幅が広い。冒頭の「地には平和を」で戦争批判を主題に読ませ、次の「コップ一杯の戦争」では飲み屋の会話の合間に戦争が始まって核で戦争国が滅んで終わるというメチャクチャなのにあり得そうな日常性を描き、他の作品でもうっかりペテンにかけたつもりの宇宙人に日本を売ってしまった男とか、未来人の性行為とか、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を改変するナンセンスなプロットご紹介とか、表題作ではふざけているようでしかし哀愁を感じたり共感を持ったりしてしまう主人公とか、江戸末期と現代を結び付けてみたりとか、ホラー風な作品があったり、グロデスク一直線なものもあったりと、本当に幅が広い。そして、妙にその視点が庶民的であり、そして最後に独特な説教を加えているのが、また面白い。その説教で小松氏の「作り話だからってあなどっちゃあいませんか、いやいや起こりうる話でっせ」という姿勢がそこに表れている感じがする。
 
ちなみに、戴いたあとで地元ブックオフでもこれが売られていた事を発見してしまったのは、秘密。いやいや、自分じゃ手を伸ばさないでいてしまう本もある訳ですよ。これはありがたい頂き物でございました。読みやすいし面白いし幅広い。