古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

うおお、熱いなこれ。
第二次大戦から始まってソ連崩壊に至るまでの時代、歴史に翻弄されたあるイヌの一族を描いた作品。軍用を代表に、与えられたさまざまな人間社会での役割を果たしつつ、野生的な「生」にしがみつくイヌ、イヌ、イヌの力強い描写。
一章毎に、1990年のあるソビエトの老人を中心にしたエピソードと、イヌ達の歴史・事件を交互させる構成が、また読んでいて面白い。徐々にイヌと老人の関係が見えてくる感覚が、沁みて来るというか。
そして、イヌと馴染んでいく老人に拉致されたヤクザの少女、このキャラクターが結構鋭い印象を受けて、先が読めない。この少女の存在、面白いなあ。言葉足らずで拗ねた生意気なガキが、イヌと絡んでこういう風に変わっていくというのが。
20世紀をこういう見方で読ませるってのがまた面白い。
しかし、何よりもイヌの生命力が、この作品の核であるなあ。そして、イヌを導いていた人間が、徐々にイヌに導かれるようになる物語の変化も、また上手い。