アーサー・C・クラーク『2010年宇宙の旅』

前編である2001年は魅力的なプロローグ、謎のモノリス、HALの暴走と、魅力的なエピソードばかりで構成されているのですが、こちらの起承転結の「起」にあたる主人公が木星に行く事になるまでが、あまり面白くないです。
HALの再起動に関する物語、木星やその衛星に関する物語、そして前作主人公ボーマンがたどる物語、これが平行して、しかもあまりコンパクトではない流れで、進行して徐々に一つにまとまっていきます。結末的には一つ一つに深い意味があるのだけれど、それぞれをバラバラに読んでいる間はちょっと面白みに欠けます。
しかしその中でもアメリカ・ソビエトを出し抜いたあるモノのエピソードや、HALを巡るクルーのやり取り、そしてモノリスの凄まじい能力は、この本の見どころでしょう。個人的にはチャンドラ博士の偏屈者っぷりがかえって人間臭く、憎らしい反面魅力的にも感じましたね。
ただ、ボーマンに関するエピソードの前半は、何となく白けてしまいます。TVドラマや映画的な妙に感傷的な色合いのする話は何となく不釣合いな印象。その後を考えると必要なエピソードなのかも知れませんが・・・。
2001年で伝わりきらなかった点、ボーマンがどんな存在になったのかや、HALは元々どのような機械なのか、そしてモノリスがどのような存在かを、きちんと書き表すために作られた作品という感じで、個人的には今一つでした。続きがある事をあらかじめ意識して書かれた作品だからでしょうか?